プロの流儀

ボルドーワイン、プリムール

プリムールに関する質問は毎年現地でテイスティングをしていらっしゃる戸塚昭先生におたずねしています。
プリムール買い等につきましては、戸塚先生から「ボルドーで永年にわたりネゴシアンをなさっている鈴木千麻さんに伺うほうが正確な情報が得られるでしょう」というアドヴァイスをいただきましたので、現地でご活躍中の『ル・トルネ』鈴木千麻さんにお願いしています。

現在は地球温暖化の好影響下にあるボルドーですが、近い将来、メルロはアルコール度数が高すぎてしまうので、減少傾向にあるとも言われています。特に右岸のワインに影響が出てくると思われます。
2008年のプリムールをきき酒していて、そのあたりの予感を感じるようなことはありませんでしたか?
あるいは、メルロ主体のワインについての今後のあり方について、ご意見はありませんか?

有力シャトーのプリムールで契約成立後、ワインはいつネゴシアンが引き取るのでしょうか?
また、収穫から2年ちょっとで日本でも販売され始めますが、その間にいろいろな取り引きを経るようです。
コンディションを考えるならシャトーが保管したまま日本のインポーターに引き渡すのが良いはずですが・・・

メドックの格付けシャトーは格付け後にそれぞれ少なからず土地の売買をしているはずです。
どの程度の割り合いなら容認されるという基準はあるのでしょうか?


メルロの品質はなんとかなっても、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フランの品質確保が難しい気象条件の年が続いている時に、メルロを何の品種に植え替えようというのでしょうか。温暖化に対処して南仏の品種を導入しようというのでしょうか。今でも「スイスイ型」のボルドーワインが多くなっているので、これからもっと「南仏の大手の並酒」に近づいても驚きませんが。

ボルドーワインの関係者が、ロバート・パーカー氏の「筆力」を利用してアメリカ市場の拡大を図りだした1990年後半から、フロンサックや(バー・)メドックではカベルネ・フランをメルロに改植するなど「劇的変貌」が進みました。オーナーが変わると、投資資本の回転効率を上げるためでしょう。私はメルロの植栽比率が大きくなった影響は無視できないと思います。

今年のプリムールでも、メルロの「渋味の柔らかさ」を前面に出したものが多く認められました。メルロの渋みを和らげるために、長期間にわたる低温醸しも行われています。その結果、数々の「シンデレラワイン」の誕生がみられました。プリムールのきき酒にあたり、「将来性」よりも、きき酒をした時点の口当たりの良さを高く評価する「プリムールの素人」が多くなったことも、シンデレラワイン誕生の背景にあると思います。オー・メドックのきき酒会場で、プリムールの時点でスイスイ飲めて将来性を感じないワインについて、ライターとおぼしき人が「ビロードのような舌触り」などと評していましたが、ボルドーワインを堕落させているひとつにはジャーナリストの責任もあると思います。

今回A.O.C.メドックのシャトーのワインで、メルロの比率が80%というものに出くわしました。案内したネゴシアンは「このワインは日本人とアメリカ人のバイヤーがとても褒める」と言っていました。私は思わず、「最近はプリムールのきき酒の意義がわからないバイヤーがほとんどだ」と切り返してしまいました。このシャトーのワインは、瓶詰めしてからきき酒すれば十分なワインであって、残念ながら先物取引の対象となるワインではありません。

いずれにしても近年のボルドーのワイン醸造はアメリカ等の市場に顔を向けた「経済」を重視したワイン造りが主流となり、テロワール以前の問題と認識しています。テロワールの定義に、オーナーの「哲学」を含めれば、まさに「テロワール」の問題ですが。

ボルドーの業者、特にオーナーが、ロバート・パーカー氏とミシェル・ローラン氏のジョイントゲームを寵愛している限り、長期熟成に耐えるボルドーワインの将来を論じるのは愚かとしか言いようがありません。最近になって、ロバート・パーカー氏のポイントよりもワインスペクターのポイントを重用する流通業者も現れていますが、これまた、プリムールの買い付けには役に立ちません。

私としては、長期熟成に耐える酒質で、かつ市販価格とのバランスのとれた「ボルドーワイン」造りをするシャトー、ごく少数のシャトーで良いので、「まともなプリムール市場」を形成してくれることを願うばかりです。

回答者:戸塚 昭

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ワインの引取りは瓶詰めされてからです。通常ボルドーワインは18ヶ月の樽熟にかけますから、醸造と熟成で収穫日の約2年後にネゴシアンに引き取られます。瓶詰め後、少し寝かせ安定させてから引取らせるシャトーもあります。
その間(契約成立からネゴシアンが引取るまで)にいろいろな取り引きがあっても、それは買い付け上(紙上)のことであって、第1ネゴシアンから第2に、また各国に売りさばかれますが、ワイン自体はシャトーから動かされてあちこちその度に移動する訳ではありません。ワインは熟成中ですから。プリムール購入ネゴシアンとその売却先インポーターの契約が成立していれば、シャトーからネゴシアンの倉庫に入れず、そのままインポーターに輸出することもできます。

回答者:鈴木 千麻ページのTOPへ戻る


メドックの格付けは1855年のものであり、その当時の取引価格をもとにつくられた評価です。ぶどうが植えられている土地を基準につくられた格付けではありません。もちろん優れた土壌に植えられたワインの評価であるとも言えます。そのような訳で、基準はありません。
1855年から今日に至るまで様々な研究開発がされてきました。土地の売買のみならず、優良ワインになるための土壌研究も進んでいます。今日では、各ヴィンテージの新酒価格が、評価基準と言われています。

回答者:鈴木 千麻ページのTOPへ戻る


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