プロの流儀

醸 造

 

ビオロジック・ワインの認証機関のひとつ、『ナチュール・エ・プログレ』では酒石酸や正リン酸を使用禁止にしていますが、禁止するメリットは何ですか?

貴腐ぶどうの甘口ワインに感じるセメダインの香りですが、この香りが出てくる時は「どのような状態の時」ですか?また、貴腐ぶどう特有の香りと言えるのですか?

ワインに関して、「閉じている時期」ということを聞くことがあります。香りや味わいが本来のものではないということかと思うのですが、具体的にはどういう状態なのでしょうか?

ロゼの製法について

大きいボトルでの熟成のメリットについて


まず、酒石酸ですが、これはぶどうが作る酸のひとつで、ワインの酸味の重要な成分です。
フランスの法律では、一部のAOCに限られますが、発酵前のぶどう果汁に酸度が足りない場合は、酒石酸を添加して調整することが認められています。添加する酒石酸は、ぶどう由来のものを使用しますので、化学的には元々のぶどう果汁に含まれるものと全く同じものです。
ビオディナミの生産者は、ぶどうが植えてあるテロワールで生み出されたものにこだわりますので、化学的には同じ成分であっても、別な産地で作られたぶどうから抽出した酒石酸を使うことに抵抗があるのでしょう。
また、正リン酸(リン)は、発酵の際に酵母のエサとなるもので、酵母が増殖する時に必須の成分です。DNAに含まれる成分ですので、すべての生物にとって成長するときに必須の成分です。ぶどうにリンが少ない場合、酵母はうまく増殖できず、発酵が緩慢になります。
酒石酸、およびリン酸の添加を禁止するのは、ともに特にメリットはありません。
どちらの場合も、ぶどうが植えてあるテロワール以外から来たものを、入れたくないという考え方(思想)から来るものだと思われます。

回答者:安蔵 光弘ページのTOPへ戻る


セメダインの香りは、有機酸である酢酸と通常のアルコール、エティルアルコールがエステル化した酢酸エティルが主たるものであると思います。
貴腐ワインは果汁糖分が極めて高く、成分も複雑です。一般的にこの様な果汁では酵母は醗酵中に酢酸を生成します。酵母の種類によっても酢酸の生成量は変わりますが、自然状態では醗酵能力の高い菌株の方がこの生成量が多いと認められる場合があります。
長年、貴腐ワインばかりを造ってきた蔵では、このような性質をもった酵母が住み着いていても不思議ではありません。
もちろん、貴腐ぶどうといっても、ボトリティスだけが繁殖しているわけではなく、普通の自然条件下では、これ以外にも酵母や細菌類も生育しています。酢酸菌も認められる場合もあり、これにより酢酸や酢酸エティルが生成されることもあります。
貴腐ワイン中の酢酸や酢酸エティルは、少量ですと自然なもので一般的です。量の違いは、収穫する貴腐ぶどうの状態や、自然発酵や培養酵母を使用するなどの醸造方法に依ります。
セメダインの香りは、ワインの香り全体の中での感じ方によって評価が変わります。明らかに強すぎる場合は欠点ですが、極めてわずかであれば自然でふくらみを感じることになります。

回答者:村上 安生ページのTOPへ戻る


これは、難しい質問ですね。「閉じている」という状態は、ワインが本来有してると思われる香りの量が少ない、また香りの感じ方や立ち上がり方が異なる、質的に違和感を覚える、等の状態でしょうか。
大きく捉えると、ワインは造られた初期では、ブドウ果実の特徴が優勢で、時間が経過するに従い、いわゆる熟成香が優勢となってきます。この中間時期では、このような特徴が明確に感じられない時期があります。また、瓶熟成中では感じられる香りの質が、より華やかなものに変化しふくよかになってきます。このような香りを期待していたが、実際にはまだこの変化が進んでいない時期などでしょうか。もちろん、瓶詰め直後の風味がバランスを崩した時期もあります。
さらに短時間での現象、つまり開栓直後は香り立ちは低く、少し空気を吸うと香りがたつ現象。これは温度の上昇や、酸化により香りの強い構造に変化する、あるいは酸素により香り立ちを抑えるにおい(イオウ系など)を酸化させる、などで香り立ちが強くなるのかな、と思います。

回答者:村上 安生ページのTOPへ戻る


ロゼをつくる方法は3つあります。

  1. 黒ぶどうを発酵させて、ごく初期の色があまりつかないうちに圧搾する。圧搾したもろみ液には、まだ糖分が残っているので、液体の状態で糖分がなくなるまで発酵を継続 (半醸し法)
  2. 黒ぶどうを破砕して、タンクに入れ、発酵させる前に果汁を引き抜き、薄いピンク色の果汁を発酵させる(セニエ法)
  3. 黒ぶどうを破砕して、すぐに圧搾し、果汁を発酵する(圧搾法)で、酒質は3⇒2⇒1の順で色が濃くなります。
  1. は少しタンニン分を含み若干赤ワインのニュアンス
  2. は淡いピンク色が付いていて中間のタイプ
  3. は淡いロゼ色で、白ワインに近いニュアンスシャンパンのピノ・ノワールの圧搾は3のタイプですが、ローランン・ペリエのロゼは2のセニエ法で造っています。

醸造の形態としては、

  1. は期間が短いこと以外は赤ワインの醸造法
  2. は黒ぶどうを使うこと以外は白ワインの醸造法
  3. は結果的にロゼワインが出来ますが、目的はロゼワインをつくることというよりは、赤ワインを濃くするという目的で行われる方が一般的です

(出典:青木冨美子のNon Solo Vino/醸造家安蔵光弘さんへの質問箱より)

回答者:安蔵 光弘ページのTOPへ戻る


ワインの熟成に絡むファクターは、

  1. 熟成はワインの成分と酸素の反応の結果。
  2. 温度が高ければ早く熟成し、低ければゆっくりと熟成する。
  3. 保管場所は適度な湿度があり、温度変化が少ない場所が最適。

大きなボトルで熟成すると、どういう違うがあるのかに関しては、a、bのように言われています。

  1. 小さいボトルに比べて、大きなボトルの方が、相対的にボトルネックのところの空気が少ない(750mlのボトルでも3Lでも空寸はほとんど同じ)。そのため、ゆっくり熟成する。

では大きいボトルほど良いかというと、

  1. 重量的に扱いにくい点もあり、大きな容量と言う意味ではマグナムサイズ(1.5L)の大きさのバランスが好ましい。

私見として、

  1. 容量が大きいボトルほど、温度の変化が少ない(液量が多いため)。

例)3Lのボトルは375mlと比べて約10倍の容量があるため、セラーの温度変化をゆっくりと吸収する⇒液量が多いほど温まる(or冷める)のに時間がかかる。
実際にワインを造っていて、ハーフボトルに詰めたものは、同じワインのフルボトルのものに比べて、熟成が早いように感じます。
(出典:青木冨美子のNon Solo Vino/醸造家安蔵光弘さんへの質問箱より)

回答者:安蔵 光弘ページのTOPへ戻る


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