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辛亥革命を陰で支えた“男気”の歴史物語

封印されてきた過去の出来事が1冊の本によって明らかにされた。本のタイトルは『革命をプロデュースした日本人』。勃興期の映画ビジネスで巨万の富を築いた梅屋庄吉と、彼から資金援助を受けながら清朝を打破、辛亥革命を成功させ新中国を樹立した孫文を中心に、彼らを取り巻く人々、その時代が描かれている。

梅屋庄吉は、武器・弾薬の調達、革命同志らへの援助、孫文の逃亡費用、飛行機の調達など、細部にわたりサポートしていた。その額は現在の貨幣価値に換算して1兆円近いと言われている!一個人が捻出した破格の金額!庄吉は革命に失敗してたびたび日本に逃れてきた孫文をかくまい、精神的な支えになっていた。そして、何より驚くべきことは、彼が“何の見返りも求めようとしなかった”ことである。

革命に命をかける者を援助するということは、また、自らの命も危険にさらされることになるが、そんなことは論外。庄吉にとっては孫文と共有する人生の一コマ、一コマが、彼自身の哲学実践に他ならなかったようだ。

その哲学、さりげない男気は、各章の扉にある“箴言”から感じ取ることができる。気に入った名言や新聞の切り抜き、自身の考えを綴った『永代日記』に残された含蓄あるフレー ズから梅屋庄吉の計り知れない魅力が伝わってくる。

持って生まれた使命を全うした筆者

「一切口外シテハナラズ」という遺言により、長い間、同家の子孫のもとで保管されてきた史実が、筆者小阪文乃の手によって甦ったわけだが、私は今回2つの視点から同書を堪能することができた。

ひとつめは、梅屋庄吉生誕の年から100年目に生まれた曾孫である小坂文乃が、日中2国間に起こった歴史の伝承者として、封印されていた扉を開く役割だったことを実感しながら通読したのだが、筆者を知る者としては感無量であったこと。

もうひとつは日中の近代史を、新たな気持ちで学習できたこと。偉大な歴史を背景にしているだけに多くの参考文献や専門家への確認作業は大変だったと思うが、私にとっては隣国中国を見直す良いきっかけになった。

素晴らしい歴史物語である。  (文中・敬称略)

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